日本人に生まれると、多かれ少なかれ、リズムについてコンプレックスを持つと思います。
1・3拍の手拍子になじみのあるリズム感は、ポピュラーミュージックではマイナスに働くこともあります。
しかし本来リズムに優劣は無く、曲のノリに合う・合わないがあるだけです。
大切なことは、曲が求めているリズムは何なのかと、自分がどんなリズムが好きなのかを知ることです。
そのためには曲のあるべきリズムの重心と、自分が好きなリズムの重心を知ることが大切です。
1・3拍重心は盆踊りと揶揄されることがありますが、その重心でカッコいい曲はいくらでもあります。
2・4拍重心は1・3拍重心に比べて優れている訳ではなく、黒人式の盆踊りにマッチしているだけです。
それぞれに優劣はありません。
この記事では、リズムの重心の位置の把握方法と、それぞれの重心の楽曲紹介をします。
リズムの重心の位置について
リズムの重心の位置を知るためには、曲に合わせて手拍子や指パッチンなどで音を出すとわかりやすいです。
4/4拍子の曲であれば、下記の方法を試してみてください。
まず2・4拍目に手拍子や指パッチンなどで音を出す。
・肘の動きなどで1・3拍目に落ち着き所を作りたくなったら、1・3拍重心。
・そのまま2・4拍目だけを叩いてても落ち着く場合が、2・4拍重心。
・リズムの落ち着き所が無く、演奏が走っている訳でもないのに、リズムが前に進んでいく感覚があるなら、重心が薄め。
盆踊りに合わせて手拍子を打つとわかりやすいです。
下の動画に合わせて、2・4拍に手拍子を打って見てください。
1・3拍になんらかの動作を入れないと落ち着かないと思います。
これが1・3拍重心です。
(しかし盆踊りのビートはかっこいいですね、変拍子がトリップ感を生んでいます。)
この曲の場合、1・3拍の重心が重いので、そもそも2・4拍の手拍子に違和感があると思います。
その違和感が1・3拍の手拍子に入れ替わるのが、2・4拍重心の、いわゆるバックビートが深いと言われる演奏です。
以下に、それぞれの重心の演奏例を紹介していきます。
※スマートフォンで見ると、動画のプレビューが表示されない場合があるようです。
その場合「YouTubeで見る」をタッチすると、YouTubeのサイトに飛んで視聴可能になります。
1・3拍重心の演奏
まずは1・3拍重心の紹介です。
こういう演奏は、聞いていて落ち着きます。
疲れていたりして、新しい音楽を楽しむ余裕がない時、この重心の曲はスッと心に入ってきます。
想像ですが、外国人からすると、オリエンタルな雰囲気を感じるリズムだと思います。
FOLK9 – The Waiter
ドンタンドドタンも良いですけど、ドンタドドンタンにしか出せない軽快さや甘酸っぱさ、あると思います。
2分14秒くらいからのダンスを見ると、リズムの重心が分かりやすいですね。
このダンスはいいですね、盛り上がっているライブハウスやフェスの雰囲気を二人だけで再現しています。
みんなで体を動かして盛り上がる時、やっぱりこういう重心の演奏だと盛り上がるんですよね。
フェスに行きたくなってきました。
cero – summer soul
この曲が収録されているアルバム「obscure ride」からは、全体的にネオソウルなど当時のブラックミュージックのトレンドの影響を多大に感じるのですが、ポップ要素とのさじ加減にセンスを感じます。
間口は広いですが、「これ聞いてる自分ってセンス良いかも」と思わせる力も持っています。
がっつり2・4拍重心のアレンジだったとしたら、かっこ良いとは思いますが、楽しむためのハードルは上がると思います。
カクバリズムって、そのあたりのポップ要素を大事にしているアーティストが多いので、好きです。
1・3拍重心の演奏とPVのおかげで、とてもリラックスした雰囲気ですね、日産ラシーンでドライブに行きたくなります。
槇原敬之 – どんなときも。
重めの1・3拍重心って、親近感に繋がります。
マッキーの歌声や歌詞など、名曲の理由はたくさんありますが、仮にこれが2・4拍重心の曲だったら、「この曲は自分のことを歌っている」と思う人は今より減ったのではないでしょうか。
メロディーが完全に1・3拍重心ですね。試しにサビを2・4拍重心で歌ってみて下さい、違和感があると思います。
サビの「どんなときも」の「どん」に重心を感じて、そこに気持ちを込めて歌いたくなりますね。
2・4拍重心の演奏
次に2・4拍重心の紹介です。
こういう曲を1・3拍重心で演奏してはいけません。
セッションで演奏して、バックビートの浅さを指摘された人も多いのではないでしょうか。
あなたがもしこのジャンルの初心者だったとして、共演者に指摘されても凹むことはありません。
リズムの重心を入れ替えることはとても難しいので、1・3拍重心に慣れた私たちが上手く演奏できないのは当たり前です。
Art Blakey & the Jazz Messengers – Moanin’
このBPMでこのテーマを日本人が普通に演奏したら、日本式の盆踊りになっちゃいますね。
日本人はファンキーな気持ちになったら日本式盆踊りを踊りたくなる気質があるので、ファンキージャズって難しいです。
ファンキーな気持ちになっても、黒人式盆踊りの2・4拍重心を忘れないようにしましょう。
また2・4拍のスネアについて、いわゆる8ビートのスネアに比べ、軽快な位置で演奏されていることもポイントです。
芯は太いけど躍動感も忘れない、俊敏なラグビー選手のようなビートです。
D’Angelo – Brown Sugar
こういう曲を演奏する際は、2・4拍重心のバイブスを維持することに全力を注ぎましょう。
フィルインなどでバイブスが途切れると、エセだということがバレてしまいます。
ロックなどは、派手なフィルインを無理やり入れても盛り上がるのですが、こういうジャンルだとお客さんの足を止めてしまうだけです。
そもそもフィルインを入れるより、展開をつけたい時は何かを抜くアプローチの方がかっこいいと思います。
Pavement – Stereo
前の2曲とはまた違った、白人的な2・4拍重心です。
2・4拍重心の演奏って、他の要素が乱雑でも、重心が揃っていたら、不思議なまとまりが生まれます。
全然練習してない人たちが、奇跡的にかっこいい演奏をしているのかと錯覚するような、荒さとまとまりが同居しています。
いやー、かっこ良いです、センス良いです。
重心が薄い・変化する演奏
そもそもリズムの重心が薄かったり、変化したりする演奏もあります。
個人的には一番好きなタイプの演奏です。
演奏者の味で誤魔化しにくいので、フラットなリズム力が試されます。
アマチュアでこういう曲をやり続けるためには、継続したリズム練習が必要ですね。
Pat metheny trio – Bright Size Life
基本は重心が薄めの、浮遊感のあるリズムで進みますが、AABAのBで2・4拍の重心を強めたりしています。
こういうレガートって、リズムの落ち着き所が無いので難しいんですよね。
とにかく浮遊感を維持したまま歌う必要があるので、リズムの許容範囲がとても狭いです。
初めのうちは、メトロノームを8部音符の裏に鳴らしながらレガートの練習をして、自分の悪いクセを矯正する練習をすると効果的です。
フラットなリズムを体に染み込ませてからだと、浮遊感の維持と歌うことを両立させやすいです。
Anderson .Paak – Lockdown
ヴァースのラップはいい意味でサラサラしてて、フックのスネアもそこまで深くなく、かといって1・3拍の重心でもない、浮遊感・前進感のある演奏になっています。
Anderson .Paakと共演者達の重心が少し違う点も面白いです。例えば最初のヴァース、ベースには2・4拍に重心を感じますが、Anderson .Paak のラップ・ドラムは4拍がイーブンな重心で、組み合わさることでビートの粘りと前進感が共存しています。
重心の重さは必ずしも共有する必要はなく、違う重心の演奏を組み合わせると、トータルサウンドとして良くなることもあります。
中村佳穂 – GUM
20分くらいの動画ですが、最初に演奏される「GUM」を聞いてみてください。
楽しそうなセッションですね。
中村佳穂がさっぱりしたリズムで歌いながらシンセベースを演奏し、共演者もリズム的に前へ前へと攻めた演奏をしているので、バンド一丸となって躍動感を生み出しています。
あくまで個人の体験に基づきますが、この種の演奏が上手くいっている時って、みんなで高速の二人三脚をしているような、高揚感と恐れが入り混じった気持ちになると思います。
前にコケることを恐れるとダルい演奏になってしまうので、恐れを楽しむくらいの気持ちで私は演奏していました。
最後に
さまざまなリズムの重心の演奏を紹介をしましたが、そこに優劣はなく、大切なのは曲にあった重心があるということです。
曲を聞く時や演奏する時に、リズムの重心を意識すると、今までとは違った楽しみ方ができると思います。
是非とも、色々な発見をしてみて下さい。
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